honkyochiblog

さようなら、はてなグループ…

「陽気なギャングが地球を回す」

何かを見たり聞いたりした時、その対象を瞬時に自分と切り離して、自分は絶対正義の側、すなわち言いっ放しでも許される、決して叩かれない安全圏に位置した上で、糾弾したり全否定したりするのは実に簡単で、そしてすごく気持ちがいいことだ。何しろ自分は絶対的に正しく、叩かれる方は議論の余地もなく絶対的に悪いのだから。だが、そんなことを繰り返していても自分の周囲の状況をよくすることには何ら貢献せず、自分が訳知り顔の、世を拗ねた老人になるだけで、どこにも明るい未来が訪れないのではないだろうか。
あらゆる問題は、それを「問題だ」と認識しつつ「あれは○○*1が悪い。だからどうにもならない。以上」と断じ、結局何もしない理由を積み重ねるだけの自分にも責任の一端があるのではないだろうか。自分とは関係ないことと言い、切り捨ててしまう姿勢そのものに何ひとつ問題はないのだろうか。
と、そのような前提に立ってみて、ひとつ強引に自分の側に引き寄せて、自分自身の問題として考えてみることにする。あそこにいたのは知らない他人ではなく、自分なのではないか。トリッシュの傷は俺の傷だ、と。
【前提・原作は読んだ。製作者側のことはひとつも知らない。】
自分がこの映画の監督だった場合…
自分の作品が上映されてる劇場に行っていちばん後ろに座って観客と一緒に見た後で、トイレに入ってズボンを下ろして座って床を見て、「ああ、『下妻物語』を真似したからって面白い映画になるわけじゃなく、『鮫肌男と桃尻女』や『PARTY7』を真似したからってオシャレでポップな映画になるわけじゃなく、『踊る大捜査線』を真似したからといって大ヒットするわけじゃないんだよなあ」と思い至らないんだったらもうそのまま溶けて流された方がマシだし、思い至るんだったら自らすすんで流されるべきだ。自分に映像でストーリーを語る能力と役者と大勢のエキストラを演出する技術が足りないことや、ギャグのセンスが足りないことにも気づかず、CGの適切な混ぜ方も分かってなく、映画をトータルで見渡すことも出来ず、そもそも自分が自分のことを客観視出来ない人間だということにも目をそむけ、何か明らかに間違った時に苦言を呈してくれる者がいる体制を作れなかった、裸の王様の監督である自分に、一番の責任があることはどう考えても間違いないんだから。あー、ミスキャストだとか通路でブチブチ言ってた人いたよな?ってことはいやいやいや役者のせいなんかじゃありえないありえない。役者を起用した側つまりえっとプロデューサー?いやいや誰もプロデューサーの名前なんか映画見た後チェックしないボロクソ言われるのは結局エンドロールの最後に一人で出る監督の俺だ俺に全ての責任があるって話になるんだ。だいたいそんなミスキャストとか言われたって役者だっていい迷惑だよ。「いやあ自分この役には合わないと思うんでこの仕事受けません」なんて言う役者が大勢いるか?仕事だよ?どこまで痛い奴なんだろう自分は。(下水道を流されながら)明らかに自分に向いていない作品を受けて小手先でどうにかしようとして失敗した事実をしっかりと受け止めて、マンホールから出て、『砂の惑星』の次に『ブルーベルベット』を撮ったリンチのように、『未来は今』の次に『ファーゴ』を撮ったコーエン兄弟のように、すぐさま自分の特性に合った映画を作らないと!先がない!先なんかありゃしないよ!作らない、作れないのどちらでも、また同じことを繰り返すくらいならもう映画関係の仕事には近寄らない方が世のため人のためなんじゃないの?褒められも儲かりもしないのに!テレビとCMやってればいいんだ。ああもう何が悲しくて他人様がちゃんと書いて出版されたミステリを「こうした方が面白い」とか調子に乗って結局改悪し、全部超最近の、同じ国で作られたそれも映画という同じジャンルの作品のおいしいと思われる要素を外見だけ頂いてツギハギしてまで、こんなお寒いものをデッチ上げなくてはならなかったんだろうか、俺は。ジャンプの漫画を見ながらジャンプの漫画を描く真似と同じじゃないか。そういうのはそういうのが抜群にうまい選ばれし人だけがギャグとしてやるからおかしいんであって、誰も彼もが「もうオリジナルなんてどこにもないんだよ」とか分かったようなこと言ってやり始めたら最悪じゃないか。だったらもう過去のやつ無限に再編集してるだけでいいじゃんか。だいたい石井克人の映画とか真似する題材としてどうなの?どうなの?ベストだったの?何なんだ俺、ドカンドカン客席がウケまくる幸福な映画が出来上がるはずじゃなかったのか。海外にも持っていける映画が出来上がるはずじゃなかったのか。税金対策やマネーロンダリングや何だろ囮捜査?とかのためにダメな物をあえて作れと言われわけじゃないんだから公開翌日の日曜夜の回であの入りで、なおかつその奇特な観客をクスリとも笑わせられなかったら口コミが広まるなんてありえないしだもんで興収も伸びずDVDもさっぱり売れず出資者に申し訳がたたないじゃんか。合わない役を振られた役者に『どうもおつかれさまでした』以外にかける言葉なんかありゃしないじゃないか。『また何かあったらよろしく』?いやいや皆喜んで次回作でも組んでくれるか?自分の演技だけチェックしてたっていくらなんでも気づくだろ?ああそれよりもまず、それよりもまず観に来てくれたお客さんに、2000円弱の金と人生の貴重な4時間ほど*2を奪ったことを謝らなくちゃいけないんじゃないか。その4時間もし働いてたら時給1000円として4000円?2000円+4000円で6000円!?レイトショー5回観られるじゃないか(床に頭を何度も打ちつける)うっが!いっでえ!(いきなり立ち上がる)いいじゃねえかよ!俺は一生懸命やったんだ!手え抜いたわけじゃねえんだよ!やるだけやった結果がこれなんだから別にしょうがねえだろうが!人の価値観なんてそれぞれだろうが!だいたいこんなん、うまくいかねえんだよ!大体原作が地味なんだよ!だからなんかいろいろくっつけて盛り上げるしかないだろうよ!…て…ああ…うやあ…うぼああ…ああもうどの口で「映画が好きなんですよ」なんて言ったんだろう。卒業アルバムの将来の夢の欄に『映画監督』と書いたあの頃の俺がこの映画を見たらどう思うんだろう。「映画を作るのなんて簡単さ」なんて軽口叩いたあの子は今してるだろう。ううう。はっ、うああ怖くて2ちゃんなんか絶対見れない。よし、ネットはしばらく一切見ないことにしよう。DVDのコメンタリ?何言おう。無感情に流すか、笑い飛ばすか、酔っ払って逆ギレしようか?いや、ふつうに「出来上がりにはすごく満足している」とか開き直ろうか?
…となるくらい、むごい出来の映画だった。

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*1:ここには自分以外の全てを入れることが可能。

*2:映画館への行き帰りと鑑賞に要する時間。