限りなくカタギには見えない二人組が通りかかったが、あまりにも「登場人物」っぽい謎めき具合で、個人的に根掘り葉掘り質問をぶつけたくなって困った。
彼らは国産のそこそこ高級車に乗っていた。何より気になったのは、車の中に長い柄の回転ノコギリを入れていること。柄の長さ1メートル半くらいか、後部座席にエンジン部分（および使う時に持つところ）を置いて、柄の部分は運転席と助手席の間を通って、先端の回転する刃の部分はフロントガラスの近くまで迫っている。刃には一応、という感じで布が被せてある。
まあ、そんなの乗ってるのが植木職人みたいな人だったら全然不思議じゃないけど（職人は結構アンバランスなことをするので）、運転してるガタイのいい若いのはまあどう見てもチンピラ、という感じで、髪は短く口髭は生やしつつ不潔感のないように綺麗に周囲を剃り、白いたらーんとしたチンピラ服を着ていて。助手席にいた兄貴分と見られる方は髪を金髪に染めて、鳶服にサングラス、半袖シャツの袖から見える腕は手首まで超カラフルで、割とご機嫌な様子だけど若いのに手を貸してもらわないと車から降りるのも難儀なほどフラついててその足取りはゆっくりで、顔が少しピンク色になっててところどころ皮が剥けてる。ごく最近火傷を負ったように…。そこで鳶服のポケットの中の携帯が鳴り、のろい動きで兄貴分は電話に出る。それまでの弟分との会話でののったりとした口調は普通に戻る。「ああどうも、お疲れさまです。ええはい、はい、終わりました。…ええああ、はい、ああなんか、名前変えたみたいで…」そこで兄貴分は背中を向けて小声になって、それ以降はよく聞こえず。
ああもうあああ、片っ端から聞きてええ
①え、なんでそんなにボロボロ？
②そのノコギリ何に使ったんです？
③名前変えたってどういうことです？
④とかって聞いちゃマズいですかね？
まあ説明されれば「あ〜何だなるほど、ははは」みたいなことなんだろうけどね。
トランクに黒くついてる指の跡とかも何だろ。一般論として拭いといた方がいいよね。いい車だし。
