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「極妻のことを一人で真剣に考える」

昨日の木曜洋画劇場で「極道の妻たち 惚れたら地獄」やってて飯食いながら見始めて何となく最後まで見ちゃったんだけど、
組長の夫と若い衆を(射殺・逮捕・自動車ごと崖から突き落としで)全て失い、自身も射殺された(頑なまでに死亡確認しないの、敵幹部。実況住民笑いながら総ツッコミ)と思われた主人公・岩下志麻だが…という流れで暗転、
「1年後」ってテロップが出て、悠々とした表情で温泉町でひとり旅としゃれこむ志麻、という絵になったのだけは本当に訳がわからなかった。
いや、そうする意図が全然わからない。
そこに行くのが後の展開につながるようでもないし(カットされてたりして。いやまさか)。
それまでの、高速道路のサービスエリアでヘリに乗ってやってきたヒットマンにマシンガンで蜂の巣にされる高島忠夫(夫であり組長。最初から最期までありえなさすぎて笑える)とか、敵幹部・渡辺哲の死体写真を流すニュース(いや、タイの新聞じゃあるまいし)とかは「ああ、そういう方針なのね」でむしろ大いに歓迎するところなんだけど(実際、実況も爆笑レスの嵐だった)、やはりそういう、観客の感情の流れを阻害する展開はナシだろう。呆然とした状態で彷徨うとかならともかく。堂々と顔出しして余裕の表情というのは。いや、泥まみれのボロボロの姿で逃げまくるみたいなのをスター女優にやらせられないよというのはよくわかるんだけど。1年間何してたんだよとか余計な疑問ばかり浮かんで困る。
「我慢に我慢を重ねた主人公の怒りが遂に爆発、決死の殴りこみへ」というのは大衆向け娯楽の王道なんだから、ここはどう考えても「何て汚え…これはもう主人公は奴らを絶対に許すべきじゃない!」という観客の素朴な反応をマックスに高めておくべきところだ。そして流れに乗せたら息をつかせず突き進むべき。そうしないと観客の満足度に揺らぎが生じ、「サイコーだったよ!」という口コミも広まらず、興行収益も伸びず、シリーズも打ち切られ、映画産業も衰退し、(略)、花は枯れ鳥は空を捨て、人は微笑み無くすだろう。
だからここは、銃声の後、敵幹部が確認に行くと大量の血痕と片方の靴、目の前には増水して荒れ狂う川で「この先は滝…まあ死体は上がるまい」みたいに世界中の誰でもが分かりるほどに思い切り安心して、すぐさま「一報を受け高笑いする敵ボス」、でもって「追われるような解散も目前の味方組織」という描写をきっちりやり、味方の若造に「ああ、せめて姐さんだけでもいてくれたら…!」とピンポイントでボヤかせるのがベストと思う。いやすごいよね極妻、つくづく感心したけど、ナレーションと劇中ニュースとセリフの応酬で、どんなに説明大好きの人にも絶対に「説明不足だ!」とは言わせないようになってるもの。
で、そんなこんなで、志麻姐が(作品内世間的に)消えてからが緊迫感もないままに意味なく長いんだよね。世良正則のパートが生きないしなあ。それでいてクライマックスがすごい短いし。ルパンが教会でクラリスに抱きつかれたところで話が終わるくらいの短さだもん。いくらなんでも物足りん。
枠自体は良いよね、極妻。
おばさんが銃撃ちまくりってジーナ・ローランズやアンジー・ディッキンソンもやってたけど、絵として意外性があって笑えて燃えて、良いよね。
映画自体はどれもあと一歩のところで突き抜けられない、典型的な日本映画というのがどうにも歯痒いほどで。
あともう一捻りでキッチュに到達し、海外でカルト的に愛好されると思うんだけどなあ。
筋書きはだいたいこういう感じじゃん?

  • どこぞに一家をかまえる○○組。主人公はそこの組長の妻。姐さんと慕われている。ここは伝統を大事にする、古き良きヤクザである。
  • そこに金のためなら何でもやる、外道と呼ぶ他ないやり口で勢力を拡大する××一家が押し寄せてくる。
  • ○○組は××組の傘下に入ること(など、まあとにかく負けること)を拒否、睨み合いになる。
  • 血気盛んな若い衆も、経験豊富で慎重な幹部も、そして組長もやられてしまい、どうにもならなくなる。組長が最初から不在の場合もある。
  • 主人公は意外な手段で敵の本拠地に殴り込み、見事敵のボスを仕留め、決めゼリフ。(終劇)

ここに行き着くまでいくつか別の筋書きもあったと思うけど、結局こういうのがいちばんわかりやすくてウケがいいのではないか。
郊外に進出してくる巨大ショッピングモールに対抗する地元商店街、
野盗の襲撃にさらされる貧しい農村、
武力を背景に開国を迫る列強に囲まれた島国など、
「敵は強大、味方はわずか」というのは、いろいろ置き換えやすい、おなじみの設定だ。
感情移入しやすく、燃えるしね。
おまけに「守り切れるのか」と「突入できるか」を同時に一本の映画で楽しめ、
ドンパチで決着がつくのもこの上なく分かりやすい。
経済物でも法廷物でも、絵としては分かりやすくないからね。
あと思いつくのは上のパターンに捻りを加え

  • どこぞに一家をかまえる○○組。主人公はそこの組長の妻。姐さんと慕われている。ここは伝統を大事にする、古き良きヤクザである。
  • ある日、組長が死んだり逮捕されたり、まあとにかくいきなり離脱し、主人公が代行をつとめることとなる。
  • 跡継ぎのことを決める前だったため、跡目を継ごうと何人もが名乗りを上げ、睨み合いになる。
  • 主人公を姉のように慕っていた妹分までもが自分のパートナーを組長にしようと画策、事態は泥沼化し、どうにもならなくなる。
  • 主人公は意外な手段で対抗勢力を押さえこみ、決めゼリフ。(終劇)

要は「遺産相続のゴタゴタ」をヤクザ世界で再現し、「骨肉の争い」とはどういうものかを追及する方向。まあぶっちゃけ、決着が着いてもそんなにスカッとは出来そうもないし、そんなにバリエーションもなさそう。
そもそも、奥さんが旦那の代わりに組長やっちゃうってのが、ファンタジーの世界だからね。現実にあってもいいと思うけど。
まあ脚本まとめてるうちに家田荘子の原作からはあっちゅう間に離れて、
気がついたらこうなってたんだろうな。
それを岩下志麻の女優力で「まあこの人なら、あるかも」まで押し上げた。
他の女優ではどうにもうまくいかなかった。三田佳子、十朱幸代、うん、微妙。
結局高島礼子も志麻に比べれば力量不足だったってことだよね。もうずいぶん新作ないもの。