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さようなら、はてなグループ…

『天才作家の正体』

(原題『THE FRONT』)9F16
脚本アダム・I・ラピダス/演出リッチー・ムーア


◎テレビ画面
 背後に『クラスティと料理しよう』の文字。観客の拍手。
 ピエロのクラスティ、隣のコックが料理する鍋の味見をして
クラスティ「う〜ん!おいしい!」
コック「今日はアナタ誕生日なんでしょ?ユダヤのパン、マツオブライを作るヨ」
クラスティ「(怒り出し)テレビでユダヤ物はやらないんだよ!」
コック「あ、でもハーシャルブーベラ…」
クラスティ「ユダヤの言葉は喋るんじゃねー!(画面外を見て指を振り回し)漫画いけえ!」


◎シンプソン家・居間
 それをソファに座って見ているリサとバート。
リサ「…クラスティ、自分のルーツにこだわってるのね」
ホーマーの声「マージ!またやっちゃったよ!オウッ!」
 ホーマー、頭上の仕切りにぶつかりつつ、現われる。
 プランジャーが頭から離れなくなってしまった様子。
ホーマー「(柄を持ち、引っ張る)ウッグググ!
  (スポンと柄だけ抜け)…あら?(トホホな表情)オウ…」
 そんなホーマーが去っていくのを見届けたふたり、
バート「(リサを見て)大人になったら名前なんて変える?」
リサ「ロイ・サンボーン!」
バート「スティーブ・ベネット!」
 と言って、またすぐテレビに目を戻す。


◎テレビ画面
 軽快な主題歌に合わせ、お互いをハンマーで叩き合う
 イッチーとスクラッチー。
 タイトル画面『イッチー&スクラッチーショー』
 エピソード名『ぼうっとしてたら殴られた』
 イッチー、スクラッチーをハンマーで軽く殴る。
 オウと投げやりな悲鳴を上げるスクラッチー。
 ヒヒヒと笑うイッチー。
 それを三回繰り返す。


◎シンプソン家・居間
 リサ、眉をしかめ
リサ「…何これ全然面白くない」
バート「これから面白くなるんだよきっと!」


◎テレビ画面
 イッチー、スクラッチーをハンマーで軽く殴る。
 オウと投げやりな悲鳴を上げるスクラッチー。
 ヒーヒーヒーとテンション低く笑うイッチー。
 二匹並んでこちらを向いて
二匹「みんなー!クスリはやるなよ!(ニヤッと笑う)」
 『THE END』の文字。
 チャンカチャンカチャンカチャンカチャン、チャン♪とBGM。


 スタジオで煙草を吹かしているクラスティ、怒り顔で煙を吐き、
クラスティ「ひっでえ漫画!俺だってもっとマシなやつ…
  (OAされてることに気付き煙草を捨て)ヘーイワーオ!
  面白かったねー!」


◎シンプソン家・居間
 顔をしかめているリサ。
リサ「30年代の超つまらない漫画『イッチーとサンボ』と
  同じくらいひどいわ!脚本家は恥を知るべきよ!」
バート「漫画に脚本があるの?!」
リサ「一応ね」
バート「俺とリサだってもっと面白いストーリー書けるよなー?」
リサ「…(含み笑いで)ふたりでストーリーを書く…
  (バートを見て)今わたしが考えてることわかる?」
バート「わかんねー」


 バート、頭の中で、雪原でサンタクロースにマシンガンを向け
バート「デブは這いつくばって60数えな!」
 サンタのソリを奪い、
バート「ハイヤー!(手綱を振りトナカイを走らせ)
  ヌハハハハハ!メリークリスマスデブサンタ!」
 空中をソリで走り、去っていく、ということを妄想する。


◎シンプソン家・外観


◎シンプソン家・居間
 届いた手紙を見ているマージ。
マージ「…『三度目の警告』。…『最後の警告』。
  …(ビックリして)『取り立てに伺います』?!
  (ため息をついて最後のを見て)…何だろコレ…」
 ソファにビール片手にボケーッとした顔で横たわるホーマー。
 マージ、中身を出して読み、嬉しそうに
マージ「高校の同窓会の招待状だわ!
  …ねえ、何であなたには来ないのかしら?」
 ホーマー、困った顔になる。
ホーマーの心の声「とうとう来たぞ…言うんだホーマー
  あの汚らわしい過去の秘密を!」
 ホーマー、起き上がり
ホーマー「ごめーん!買ったばかりの綺麗な石けん食べちゃった…」
マージ「嘘!どうして?!」
ホーマーの心の声「違う!もうひとつの秘密!」
ホーマー「マージ俺実は高校卒業してないんだ…」
マージ「それは石鹸を食べた理由にならないでしょ?
  …いや(脇を見て考え)…なるかしら?」
ホーマー「補修化学1Aを落としちゃったんだ」
マージ「それで発電所の技師やってるの?」
ホーマー「マージ原発の技師なんて、
  チョメチョメのパッパラパーだよ」
マージ「…今なんて言った?」
ホーマー「わかんない。ラテン語も落としちゃったから」

◎シンプソン家・リサの部屋
 『アニメ脚本家として成功する方法』という本を読んでいるリサ。
 ベッドに腰掛けているバート。
リサ「このハウツー本によるとまず設定を決めろって」
バート「よし設定ね。設定…設定」
 バート、ベッドから降り窓から庭を見る。

◎シンプソン家・庭
 植え込みを植木鋏でチョキチョキ切っているホーマー。
 そのすぐ脇でマージが椅子に座って本を読んでいる。
 ホーマー、それに気付かずマージの髪をザクッと切ってしまい、
 大慌てで木の枝でそれを繋いで誤魔化し、逃げる。

◎シンプソン家・リサの部屋
 バート、振り向き
バート「ねえ床屋はどう?」
リサ「いいわね!(とタイプライターを打ち始める)」

◎リサの構想
 床屋のイッチーと、客のスクラッチー、
リサの声「スクラッチーがお客さん。イッチーが床屋で…」
 イッチー、剃刀を出し、スクラッチーの首をスパッと切り落とし、
リサの声「剃刀でスクラッチーの首をチョン切っちゃう!」
 噴き出す血の下でゼンマイ仕掛けのようにポーズを取る。
 リサとバートの笑い声がかぶる。

◎シンプソン家・リサの部屋
 バート、輪ゴムをいじりながら
バート「あー平板すぎるよ。こういうのは?」

◎バートの構想
 床屋のイッチーと客のスクラッチー、
バートの声「イッチーはシャンプーの代わりに、
  バーベキューソースをスクラッチーに塗りたくる」
 イッチーは『バーベキューソース』と書かれた容器から
 バーベキューソースをスクラッチーの頭に振りかけ、
バートの声「そして!人食い蟻の箱を開けると…」
 『人喰い蟻』と書かれた箱から蟻を頭に振りかける。
バートの声「後は言うまでもない」
 蟻に喰い尽くされ、骨だけになったスクラッチー、叫ぶ。
 イッチーが椅子の下のバーを操作すると、
 椅子はせり上がり、スクラッチーは天井を突き破り、
 上の階のプレスリー風の男が見ていたテレビに突き刺さり、
プレスリー風の男「つまらねえ奴はこうだ!」
 と、スクラッチーを拳銃で撃つ。

◎シンプソン家・リサの部屋
 タイプを打ち終わるリサ。
リサ「書けた!後はあたしたちの名前を書くだけ」
バート「いやったあ!…俺の名前が先ね」
リサ「…冗談でしょ」
バート「よーし。じゃ世界一周レースをやって順番を決めよーぜー!
  明日の昼レスターズスクエアに来な。
  女王みずからフラッグを振って下さるだろう!」
リサ「もっと簡単ないい方法があるじゃない!
  …グーチョキパーで決めましょうよ」
リサの心の声「…かわいそうなお兄ちゃん。
  ぜったいグーを出すんだから!」
バートの心の声「よーしグーでいこう!やっぱし男はグーだ!」
 ジャンケンをするふたり。リサがチョキ、バートがグー。
バート「グー!」
リサ「勝っちゃった!」
バート「ドッ!」

◎イッチー&スクラッチー・インターナショナル本社ビル
 門から見上げた光景。
社長の声「これが脚本か!」

◎イッチー&スクラッチー・インターナショナル・社長室
 机の前に座るライターAに向かって脚本を投げつける社長。
社長「猿だってバナナの一本もやればもっとマシな脚本を書くぞ!」
ライターA「しかし、ハーバード大学では…」
社長「黙れ!現実を知らないパープーが!」
 ライターA、立ち上がり、出て行く。その背中に、社長、
社長「クビにならない勉強でもしてこーい!」
 ライターAと入れ違いに事務員が脚本を持って入ってくる。
事務員「リサとバート・シンプソンの脚本が届きましたー」
 社長、葉巻に火をつけ、
社長「見せてみろ!(脚本に添えられた手紙を取って読む)
  …『親愛なるマイヤース様、いつも番組を見ています。
  兄とわたしはイッチーとスクラッチーの大ファンで、
  何たらかんたら何たら…』」
 社長、手紙をクシャクシャッと丸め、
社長「おいハーバード!」
 ドアを開け、ライターAが顔を出す。
社長「校歌を唄ってみろ!」
ライターA「エーアー、ハーバード大…」
 丸めた手紙を投げつける社長。
 手紙はライターの口にスポッとはまる。
ライターA「(手紙を口から取り)あなたって人は!
  イエール大の粗暴さ丸出しですね!」
社長「…それに対する答えはこれだ!」
 机の上の名札を投げつける社長。
 名札はライターAのおでこを直撃する。
ライターA「うおっ!」
 ライターA、ため息をついて、ドアを閉める。

◎シンプソン家・リサの部屋
 リサ、手紙を読んで、ショボンとして
リサ「あたしたちの脚本だめだって…」
バート「やっぱ俺たち脚本家にむいてねーんだよ」
リサ「あたしたちが子供だから本気にしてくれなかったのかもよ。
  …(ニコッと笑い)誰か大人の名前を借りよっか!」
バート「じゃおじいちゃんがいいよ!小切手帳無断使用されても
  気が付かなかったくらいだから!」

スプリングフィールド老人ホーム『老人の城』
 タイプライターを打つ音が響く。
エイブラハムの声「貴社の雑誌は若者ばかりで…」

スプリングフィールド老人ホーム・祖父の部屋
 怒りながらタイプライターを打つエイブラハム。
エイブラハム「歯の抜けた顔、皺くちゃの顔は
  ひとつたりとも見当たらない。こりゃ差別だ!
  …雑誌『現代の花嫁』編集部へ…」
 そこに入ってくるリサとバート。
バート「ねえ!おじいちゃんの名前なんだったっけ?」
エイブ「ウアア!(振り向いて)じいちゃんの墓作んのか?!」
リサ「ちがーう!知りたいだけよ」
エイブ「そーか分かった。自分の名前…名前…混乱した時は
  (立ち上がり)パンツを見れば何でもわかる!
  (パンツを引っこ抜き)大事なことは全部!このパンツに
  書いてあるんだ!こーつと…エイブラハム・シンプソン!」
リサ「…おじいちゃんどうやって
  ズボンを脱がないでパンツ脱いだの?」
エイブ「さあねえ…変だねえ?」

◎イッチー&スクラッチー・インターナショナル本社ビル(夜)
 ひとつだけ灯りのついた窓がある。

◎イッチー&スクラッチー・インターナショナル・社長室(夜)
 葉巻を吸いながら脚本を読んでいた社長、
 悪態をついて脚本を投げ捨て、次の脚本を手に取る。
社長「『恐怖の床屋』…『エイブラハム・シンプソン』…
  (読み始めるやいなや)フフフフ…」
 ドアをノックする音がする。
社長「(見もせず)なんだ!」
 ライターAが顔を出す。
ライターA「鍵を掛けたら!ハーバードのマグカップを
  取りに行けないでしょ!?」
社長「うるさーいっ!」
 また名札を投げつける社長。
 名札はライターAのおでこをまた直撃する。
ライターA「うおっ!」
 ライターA、ため息をついて、ドアを閉める。
社長「(脚本を読み)ふふふふ…ははははは…ははははは!
  (机の上の内線通話ボタンを押し)ロキシー!
  A・シンプソンに電話しろ!」

スプリングフィールド老人ホーム『老人の城』・外観
 電話の呼び出し音が鳴る。

スプリングフィールド老人ホーム・受付
 ホームの職員、エイブラハムに受話器を渡しながら
職員「はい電話」
エイブ「(受け取って、耳に当て)ふあーい」

◎イッチー&スクラッチー・インターナショナル・事務室
 事務員、小切手を見ながら、つまらなそうに
事務員「…『イッチー&スクラッチー』の脚本を送ってきた
  エイブラハムさん?」

スプリングフィールド老人ホーム・受付
 エイブラハム、憤然として
エイブ「ハチがどうしたって?
  老人に壷や鉢売りつけようってかい!」

◎イッチー&スクラッチー・インターナショナル・事務室
 事務員、動じず
事務員「…ウチの会社がエイブラハム・シンプソンさん宛に
  小切手を振り出したんですけど」

スプリングフィールド老人ホーム・受付
 エイブラハム、急ににこやかになり
エイブ「あ、それならワシだ。ハチはワシだよ」

◎シンプソン家・居間
 アルバムを開くホーマー。一張羅を着ている。
ホーマー「あー!高校の卒業アルバム!」

 卒業アルバムの掲載されている高校時代のホーマーの写真。
 その下に各人のメッセージ。その下に活動記録。
ホーマー「このピチピチのハンサムが…
  『こんなに食ったなんて信じられない』か!エーヘッヘッヘ!!
  活動…なし。スポーツ…なし。賞…なし!
  …いろんなことやったなあ…」
 正装したマージ、出てくる。
マージ「同窓会に遅れるわよ」
ホーマー「昔の悪魔に会えるなんてワクワクするなあ!
  ポッチー、ラルフマル、ザ・フォンズ…」
マージ「…それテレビの『ハッピー・デイズ』よ」
ホーマー「いやーいつもハッピーだったわけじゃないよ。
  フォンズの彼女のピンキーがバイクで事故ったり、
  俺がトランプ賭博で大負けに負けて
  父さんの…トム・ボズリーが取り戻しに行ったり…」
 マージ、困った表情で上を見て
マージ「ンー〜…」

スプリングフィールド高校・体育館
 『74年度卒業生“バカヤロ!”』と書かれた垂れ幕の下、
 入り口に恩師、ドンデンリンガー校長が立っている。
 そこにマージとホーマー、来る。
マージ「お久し振りです校長先生!」
ドンデン「(マージの手を握り)マージ・ブービエ君!
  よく来てくれたねえ!(ホーマーを見て)…すまんが今夜は
  ホームレスに体育館を開放してないんだ。でも後で裏口に
  残飯を出しとくから」
ホーマー「ドッ!」
ドンデン「あーシンプソン、君か」

スプリングフィールド高校・体育館内・同窓会会場
 会場に腕を組んで入ってくるなりホーマー、遠くを指差して
ホーマー「見ろ!オチャラケのボビー・ビン・リッチだ!」
 ボビー・ビン・リッチ、指を組んで物まねで
ボビー「私は不正はしていない」
ホーマー「フェヘッ!リチャード・ニクソンだろー!」
マージ「わかってるわよ!」

 踊るマージとホーマー。
 そこに大金持ち風な格好をした男が、宝石のちりばめられた
 ステッキを振り回しながらやってくるのにマージ、気付き
マージ「あ!あらアーティーよ!あたしが高校の頃付き合ってた!」
アーティー「やあマージ!もう聞いた?僕が大金持ちだってこと。
  (ホーマーに)悔しい?」
ホーマー「マージと一晩過ごせるなら全財産捨てるだろ!」
アーティー「…捨てるな…」
ホーマー「フーム(と顎に手をやり上を見る)…」
マージ「ホーマー!」

 舞台の上に立つボビー・ビン・リッチ。
 ホーマーとマージ、舞台に一番近いテーブルに着いている。
ボビー「(物真似で)『よう!俺だデイブだ!開けろよ!』
  (違う物真似で)『デーブはいねーよぅ…』」
ホーマー「ハーッハッハッハ!! 」
ボビー「…じゃ次行こうか」
ホーマー「ブワーハッハッハッ!!ブーッ飛びすぎて
  相手がデーブだってことわからないんだ!(突っ伏して笑う)
  イーヒッヒッヒッヒ!!」
ボビー「ホーマー…ホーマー!」
ホーマー「『ホーマーはいねーよーぅ』!…ブワーハッハッハッ!」
ボビー「あーそっ、ウレシイねえ…ではバカバカしいので…
  (物真似で)賞の発表に移ります」
ホーマー「(マージに小声で)エド・サリバン…」
マージ「シーッ!」
ボビー「まず、『卒業してから一番太ったで賞』は…」
 ドラムロールののち、シンバルが鳴り、
 ホーマーにスポットライトが当たる。
ボビー「ホーマー・シンプソン!」
ホーマー「ええホントに?」
 ホーマー、舞台に上がる。
ボビー「…何で太れたの?」
ホーマー「朝食と昼食の間にもう一回食事したからー!」
 (ワイプ)
 ドラムロールののち、
ボビー「『卒業してから体臭が改善されたで賞』は…」
 シンバルが鳴り、
ボビー「ホーマー・シンプソン!」
ホーマー「(拳を引き寄せ)やった!」
 (ワイプ)
 指を組んで待つホーマーの前にいくつものトロフィーが並ぶ。
ボビー「最後は、『家が学校から一番近いで賞』…」
 ドラムロールののち、シンバルが鳴り、
ボビー「(物真似で)冗談じゃなーいわよぅ!
  …ホーマー・シンプソン!」
 ホーマー、壇上に上がり、マイクに向かい、
ホーマー「平凡が一番!変化を求めなかったのが良かったのかな?」
 そこにドンデンリンガー校長、横から現われマイクの前に立ち
ドンデン「(咳払いをして)卒業生の諸君、
  今君たちの成績表を見ていてショッキングな事実を発見した。
  ホーマー・シンプソンは補修化学1Aを落としている。
  つまり高校を卒業してないと言うことだ!」
 どよめく会場。
ドンデン「すまんがトロフィーは全部返してもらうよ!」
 トロフィーを奪われるホーマー。会場中の笑い者。
ボビー「(物真似で)スポーツキャスターのハワード・ホセルです。
  ホーマー・シンプソンは、間抜けです。どう思う?JJ?
  (違う物真似で)ダメだばい!」
 それを立って見ていたバーニー。よれよれの礼服で腹を出して、
 頭にハエがたかっている。
バーニー「卒業できなかったぁ?そりゃ最低だよ!」
同級生「バーニー、カマーバンドはどうした?」
バーニー「(うなだれて)トイレに落としちゃった…」

 ホーマー、テーブルの上のトロフィーも回収されるのを見て
ホーマー「…マージ、俺にもプライドがある。高校の夜学に通って、
  卒業証書もらって、(立ち上がって人差し指を立て)
  『体臭が改善されたで賞』を取り返す!」
マージ「ンー〜…」

◎イッチー&スクラッチー・インターナショナル・社長室
 社長、机の前に立つエイブラハムを見て
社長「あなたがコメディライター?こんなお年だとは」
エイブ「小切手よこせ!」
社長「ハハハハハ…確かにライターだ。(小切手を差し出し)
  どうぞお受け取り下さい」
エイブ「(受け取り)…もう一枚くれ」
社長「…おかしい方だ。良かったらスタッフになりませんか。
  週休800ドル」
エイブ「…胸がくるしい」

◎イッチー&スクラッチー・インターナショナル・ライター詰め所
 汚れ放題の室内に何人もライターが詰めている。
 ドアを開け、社長がエイブラハムを連れて来る。
社長「寄生虫ども!お前たちに本物のライターを見せてやる!
  エイブラハム・シンプソン。有名大学では得られぬ宝を
  持っていらっしゃる。…人生経験だ」
ライターB「いや、わたし卒論のテーマは人生経験でした」
社長「うるさい!(エイブラハムに)さあ、
  素晴しい経歴を披露してください」
エイブ「…40年間クランベリーのサイロで夜警をしてました」
社長「ワーオ!」

◎テレビ画面
 クラスティ、丸いシールを肘の内側に貼って
クラ「見てー!このパッチを貼るとニコチンが体内に浸透するんだ!
  だから煙草を吸う必要がない!アハーッアハハハッ!!
  …(しばらく静かにしているが、いきなり、
  狂ったようにパッチを舐め始め、画面外を見て)
  漫画行って!漫画!」
 タイトル画面『イッチー&スクラッチーショー』
 エピソード名『“恐怖の床屋” エイブラハム・シンプソン』

◎シンプソン家・居間
 テレビを真近で見ていたリサ、ソファで漫画を読んでるバートに
リサ「おにーちゃん!あたしたちの漫画やるわよ!」
バート「ぃやったぁ!(漫画を投げソファから降り、リサに並び)
  音でかくしろ!」
 リサ、テレビのリモコンを操作すると

◎テレビ画面
 5チャンネル、教育番組に切り替わる。どこかの荒野の映像。
ナレーション「…浸食はゆっくりと、確実に進みます」

◎シンプソン家・居間
 悲鳴を上げるリサとバート。
 慌ててリモコンを操作するリサ。

◎テレビ画面
 6チャンネルに戻る。プレスリー風の男、見ていたテレビに、
 顔が骨になったスクラッチーが突き刺さってから
プレスリー風の男「つまらねえ奴はこうだ!」
 と、スクラッチーを拳銃で撃つ。

 エンドタイトルクレジット。
 字幕『25ドレで台本を販売します』

 イッチーを肩の上に乗せたスクラッチーの叩く
 タイプライターから出た原稿が、
 イッチー&スクラッチー社のロゴマークに変わる。

◎シンプソン家・居間
 満足げなリサとバート。そこにホーマー、現われ
ホーマー「バート、リサ、お前たちに恥ずかしい秘密を打ち明ける」
バート「おやじー(立ち上がり)、何でも言えよー。
  親に対する愛情は変わらないから」
ホーマー「…パパは高校を卒業してないんだ」
 バート、大爆笑する。
 ホーマー、カッとなって駆け寄り、バートの首を両手で絞める。
ホーマー「クワーッ!!この…!!」
 ドアのチャイムが鳴り、ホーマーとバート、素に戻る。

◎シンプソン家・玄関
 ホーマーがドアを開けると、エイブラハムが背広姿で立っている。
エイブ「おいいたか!
  仕事の帰りなんだけど、どうしてるかと思ってな!」
ホーマー「あー?父さんが仕事を?」
エイブ「ネコとネズミのやる事を考えるだけで
  週800ドルも貰えるだよ!」
ホーマー「へー。(疑わしそうに)そーなの」
 ホーマー、頭の中で、ランラララランランと唄うエイブラハムを
 手押し車に乗せ、精神病院に放り込んでいると、
 バート、現われ、ホーマーのシャツを引っ張り
バート「おじいちゃんと三人だけにしてくれる?」
ホーマー「…別にいいけど(小声で)興奮がひどくなったら
  地下室に誘い込むんだぞ!」

◎シンプソン家・居間
 ソファに座るエイブラハムの隣に座るリサ、
リサ「…で、おじいちゃんの名前で脚本を送ったってわけ」
 リサの反対側に座るバート、
バート「なにもしないで小切手もらって変だと思わなかった?」
エイブ「また共和党が盛り返したんだと思っとった」
リサ「これからもあたしたちが脚本(ホン)を書くから
  ギャラは三等分しない?」
エイブ「…わからん。わからん時は寝る」
 エイブラハム、瞬時に寝て、いびきをかく。
バート「おじいちゃん?おじいちゃん!」
 バート、エイブラハムに手をかけ揺すると、
 手足をバタバタさせて目覚め、
エイブ「あああ?」
バート「うわ」
エイブ「…何で起こすんだよ。せっかくいい夢を見てたのに。
  (嬉しそうに)じいちゃん昔の西部劇のマドンナになっとった。
  ガーターに6連発はさんでかっこいいの何の!」
バート「…ねえOK?」
エイブ「あーOKOK」
 また瞬時に寝るエイブラハム。
 その頭の中では、西部の町で、決闘寸前のガンマンの間に、
 女装したエイブラハムが割って入って
エイブ「二人ともやめて!…(流し目で)二人と結婚するわよん!」
ガンマンたち「イーヤッホウ!」
 銃を空に向けて撃ちまくるガンマンたち。
 妖艶に微笑むエイブラハム。

◎イッチー&スクラッチー・インターナショナル・ライター個室
 タイプライターを楽しげに打つリサ。その隣にバート。
 開けっ放しのドアから社長が顔をのぞかせる。
社長「僕たち、スタジオの中、見てみるかい?」
リサとバート「イエーイ!!」
 社長、一旦ふたりと一緒に出ていくが、
 部屋のソファでごろ寝していたエイブラハムが起きると戻って
社長「エイブは?」
エイブ「階段は?」
社長「一段だけ」
エイブ「冗談じゃね!」
 エイブラハム、ソファに寝た瞬間、いびきをかいて熟睡する。

◎イッチー&スクラッチー・インターナショナル・アニメ棟
 上に『アニメーション棟』と書いてあるドアを開け、
 入っていく社長、リサ、バート。

 社長、リサ、バート、行けども行けども同じ掃除のおばさんが
 出てくる廊下を延々歩きながら
リサ「ウワー!アニメを作るのってお金かかるんですねー!」
社長「いや、そこはだね、工夫して節約してるから。
  一度使った背景を繰り返し繰り返し使ったりとかね」

◎成人教育センター・入り口
 見るからに高齢な人達がヨタヨタと入っていく。

◎成人教育センター・教室
 満員である。最前列にホーマーの姿もある。
 教壇に上がるのは恩師、ドンデンリンガー校長。
ドンデン「(咳払いし)補修化学1Aにようこそ。
  …最近妻を亡くして、教壇に立てば寂しさが、まぎれるかと」
ホーマー「(すかさず手を上げ)それはテストに出ます?」
ドンデン「出ないよ!」
ホーマー「オウ…」
 ノートに下手くそな字で書いた『妻 死んだ』を消すホーマー。

◎テレビ画面
 顔や腕じゅうにニコチンパッチを貼ったクラスティ、
 舞台上手に向かって
クラスティ「おいメル!ニコチンパッチ持ってきてくれ!」
 サイドショーメル、めんどくさそうにパッチを持ってくる。
クラスティ「アー。尻のとこ、すこし空いてないか?」
 クラスティ、ジッパーを下ろしズボンを下げ貼ってもらいつつ
クラスティ「じゃーイッチー&スクラッチーの漫画いってみよー!
  脚本はいつものシンプソン!」
 歓声をあげる観客席の子供たち。

 エピソード名『モールからの悲鳴』
 ショッピングモール。
 紙袋を両手に抱え、エスカレーターに乗るスクラッチー。
 その足元にイッチーが駆け寄り、
 スクラッチーの両足に釘を打ちつけ、すばやく去る。
 スクラッチー、少ししてから気付き、悲鳴を上げ、
 進行方向を見ると、イッチーが最上段を、
 ノコギリのように改造して待ち構えている。
 スクラッチー、もがくが、どうにもならず、
 足元から皮膚ごと毛皮を剥ぎ取られてしまう。
 イッチー、毛皮店にその毛皮を持ち込み、金に替え、出て来る。
 その後を追うように、金持ちそうな夫婦の婦人の方が、
 スクラッチーの血の滴る毛皮を襟巻のように巻いて出て来る。
 それを待ち構えている筋肉丸見えのスクラッチー、
 毛皮を奪い返し、自分も襟巻のように肩に乗せ、
 モールから出るのだが、そこに並んでプラカードを掲げていた
 動物愛護集団の女たちに袋叩きにあってしまう。

◎成人教育センター・教室
 ドンデンリンガー校長、ドーナツを大きなピンセットでつまみ、
ドンデン「(咳払いし)では、このドーナツが何カロリーあるか、
  燃やして見せましょう」
ホーマー「(立ち上がり、頭を抱え)やめろおお!」
 ガスバーナーの炎にドーナツをくべる。
ドンデン「青い炎はこのドーナツが甘いということを示しています」
ホーマー「ううう…こんな恐ろしい事が…神も仏もないのか…」
 机に突っ伏してしまうホーマーの背中を隣に座る男がさする。

◎イッチー&スクラッチー・インターナショナル・本社ビル
 タイプライターを打つ音にエイブラハムの声がかぶる。
エイブの声「親愛なる大統領」

◎イッチー&スクラッチー・インターナショナル・ライター用個室
 タイプライターを打つエイブラハム。
エイブ「アメリカは州が多すぎます。3つは消してください。
  わしゃアホではありません」
 その隣にやって来た社長、エイブラハムの顔を見て
社長「いいニュースだ!」
エイブ「(間髪入れず)お前は誰だ!」
社長「ハッハッハッハハハ!権威ある賞にノミネートされたんだよ!
  他のヤッピーライターは全員クビにした!
  今日からウチは君の独創的な脳みそひとつに(頭を揉み)
  社運を賭ける!(頭にキス)ンマッ!」
エイブ「やめてくれ!会社が潰れちまう!わしゃ詐欺師なんだよ!」
社長「(葉巻きに火をつけ))またそんなジョーク言って!
  (腕時計を見て)じゃ、失敬する(と去る)」

◎成人教育センター・教室
 黒板に『最終試験』と書かれている。
 ドンデンリンガー校長、テスト用紙の束を持ち、
ドンデン「(咳払いして)質問は50。本当か嘘かで答えて下さい」
ホーマー「(すかさず)ほんと」
ドンデン「…今試験の説明をしてるんだよ」
ホーマー「(すかさず)ほんと」
ドンデン「いいから黙ってやりなさい!簡単だから!」
ホーマー「(すかさず)うそだ!」
ドンデン「あー…」
 ドンデンリンガー校長、諦めた様子でテスト用紙を配布し始める。
ホーマー「(見上げて)よし脳みそ、俺たちゃお互いに
  憎み合ってる。でもこれさえ片付けてくれれば、
  すぐビール漬けにしてやる!」

◎シンプソン家・寝室
 礼服を着たエイブラハム、鏡の前で蝶ネクタイを付けながら、
 身振り手振りを交えてスピーチの練習。
エイブ「権威ある賞をありがとう!
  わしゃかつてルーズベルトに銃を向けました!
  そんな男に賞をくださるアメリカは寛容な国です!」
 礼服を着たバートとリサ、やってきて
バート「おじいちゃん出かける時間だよ」
エイブ「エスコートクラブから女の子呼んでくれた?」
リサ「おじいちゃんの歳だと危ないから駄目だって」
エイブ「けっ!年寄りと思って馬鹿にして!」

スプリングフィールド市民センター
 看板に『金曜 アニメ大賞授賞式』とある。

◎同・会場内
 満員の観客席にエイブラハム、バート、リサもいる。
司会の声「次は、連続アニメ番組の最優秀脚本賞の発表です!」

 舞台上に、上手からブルック・シールズ、下手からクラスティが
 現われ、マイクの前で手を握り、頬にキス。
クラスティ「さあ!出てきました!ブルックは、『青い珊瑚礁』、
  クラスティは、青い…(カンペを見直し)髪のチンピラ?
  …ひでえ。なんてひでえタイトル!」
ブルック「アニメには人を笑わせたり、泣かせたりする
  パワーがあります。…そうよね、クラスティ?」
クラスティ「オレの髪は、緑色だもんね!青じゃないもん!
  フザケんな!オレはイカッたぞ!(下手に消える)」
ブルック「あー…」
クラスティの声「こんなきついガードル、脱いでやる!
  (脱ぐ音)オッオウ…あ〜ラクチン!」
ブルック「あー…(笑顔になり)連続アニメ最優秀脚本賞に
  ノミネートされたのは…
  『ストロンダー アコムの帝王』「ウエディングの巻」…」
 背後のスクリーンに屈強な戦士が結婚している場面が映写される。
 それに拍手がかぶる。
ブルック「『アクションフィギュアーマン』
  「どうやってアクションフィギュアーマンを買わせるかの巻」」
 スクリーンにはオモチャ売り場で、アクションフィギュアーマンの
 箱を子供が指差して母親におねだりしてる場面。
子供「(泣きそうな声で)お願いママ買ってよ〜!」
 しぶしぶ箱を手に取る母親。

 観客、賞賛の拍手。
ブルック「『レイ&スティンピー』新シリーズ第一弾!」
 スクリーンには黒地に白で『まだ 製作中』と出る。

 観客、ひときわ大きな歓声。
ブルック「そして最後は、
  『イッチー&スクラッチー』「恐怖の床屋の巻」です!」
エイブ「…指を交差させてくれ」
 リサ、エイブラハムの人差し指と中指を交差させる。
 パキッパキッという音がする。
エイブ「あとで指がつるなあ…」

 スクリーンに、スクラッチーが人喰い蟻に喰われ、
 頭が骨になる場面が出る。

 それを見て大爆笑する観客。

 唖然とするエイブラハム。
エイブ「なな〜!!」
ブルック「ウフフ…(向き直り)そして受賞者は…
  (封筒を開け)「イッチー&スクラッチー」の、
  エイブラハム・シンプソンです!」
エイブ「ウワ〜!」
 と驚きつつ、立ち上がり、通路を舞台の方へ
バートの声「やーったおじいちゃん!カッコイイー!」
 マイクの前に来るエイブラハム、トロフィーを受け取り、
 ブルック・シールズにキスされ、にこやかに
エイブ「「イッチー&スクラッチー」を見たのは今日が初めてです。
  (急に怒り)いったいどこがいいんだあんなもん!
  (と台を拳で叩き)いい大人があんな暴力漫画をチヤホヤして!
  あんたらには良識ってもんがないのか!恥を知れー!」
 観客、大ブーイング。野菜を投げる者がいる。
 さまざまな野菜を投げつけられつつ退場するエイブラハム。
 観客席にかつてイッチー&スクラッチー社にいたライターがいる。
ライターC「その通りだ!今まで人生を無駄にしていた!」
ライターB「漫画なんか何だ!私は書きたいものを書くぞ!
  ロボットが出てくるホームコメディを!」
 エイブラハム、リサとバートの席まで戻り、
 トロフィーをリサに差し出し、
エイブ「ほら、これ。このトロフィーはお前たちのもんだ」
 リサ、トロフィーを受け取る。
エイブ「帰るぞ」
 手をつないで出口へ歩いていく三人。
リサ「みんなほんとのことは聞きたくないのよ、おじいちゃん」
エイブ「ほーだー」
バート「オレ、授賞式なんかもう見ないよ。
  ビリー・クリスタルが出るやつは別だけど」

◎シンプソン家・台所
 マージがお茶を飲んでいるところに、
 ホーマー、テスト用紙片手にやってきて
ホーマー「マージ!受かったぞ!」
マージ「まあおめでとう!すごいじゃない!」
ホーマー「次の同窓会は、何も恥じることなく堂々と参加できる!」

スプリングフィールド高校・体育館
 スプリングフィールド 2024年。
 『74年度卒業生 第50回同窓会』と書かれた垂れ幕の下、
 入り口にドンデンリンガー校長が立っている。
 そこに年老いたマージとホーマー、来る。
ホーマー「こんばんわ、校長センセ」
ドンデン「…シンプソン、頭にプランジャーがくっついてる」
 ホーマー、そこで初めて自分の頭に
 プランジャーがくっついてるのに気付き、
 マージもそこで気付いて、しまった、という頭を押さえる。
ホーマー「ドッッッ!」
マージ「ンー〜…」

<終>