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「マイマイ新子と千年の魔法」新宿ピカデリー

追記・ラピュタ阿佐ヶ谷にてレイトショー公開決定。12月19日(土)〜26日(土)夜9:00より連日1回上映。
でも50席×8日=400人じゃまだまだだ。もっと!http://www.shomei.tv/project-1385.htmlもっとだ!
劇場に直に要望伝えるのも大いにアリじゃないかと思うよ!


冒頭からむやみな昂揚感がハンパなくて、「え、前髪のへんにツムジがあるだけで、世界はこんなふうになりますか?!」とまず驚く。確かに自分もガキのときは、道路の白い線から落ちたらサメに喰われて死んでたけども、それをここまで長時間維持し、発展できるとは只者じゃないわ、新子。明らかにハイジ級の使い手。ここでもう早くも「これは何か凄いものでは…」という予感に震える。もう麦畑とかどう考えても海だし、家が船なのも確定的に明らか。絵と音響の相乗効果で、「WALL・E/ウォーリー」なみにただ見ているだけで楽しい。
そしてその想像力の飛びっぷりを支えるように、「地に足がついた」という言葉通りに、人物が歩く・走る動作を丁寧にとらえている。都会からやって来た貴伊子(きいこ)が初めて裸足で野っ原を歩いてみて「あたた」ってなるところ、水びたしの靴でグジュッグジュッと音を立てて歩くところ等、なんとも実感に溢れている。貴伊子の乗ってくる列車が「時刻表から到着時刻を割り出し、また列車の編成から客車の型番まで調べ抜いた上で再現された(パンフより)」というあたりの徹底したリサーチっぷりにも震えがくる。
でもって明るいガール・ミーツ・ガールのお話として始まったはずが、やがて綺麗事では済まされない領域に足を踏み入れ始め、さらに驚くことになる。なんという振れ幅。ここかなり驚いたよ。あの牧歌的なパッケージから全然想像できない展開。いやほんと、昭和三十年代だって平安時代だって、悪人はいたし、埋めようの無い格差はあったし、治らない病気だってその時代ごとに…と理不尽な目には事欠かなかったわけで、別に本当に「昔は良かった」なんてこたぁないわけだけども、それをこういう話でやるとは。でもそれらどうしようもないものすべてを飲み込んでなお、世界は広いし、美しく、面白い。空には星が、地には花が!
さらに驚くのはその局面で主人公たちの取る行動が、誰もが納得のすっきりした結果を生まないこと。なんというリアリズム。おそろしいほどのアンチクライマックス。あれなあ、新子のパートとか、単に言いくるめられてるだけだもんなあ。あんなちっちゃい子らが一生分の勇気を振り絞って殴り込んだというのにさ…。向こうが手を出さなかったのだって明らかに「この流れであのガキに怪我させたら先々面倒くさいわ」ってだけだよねえ。力で威圧しといて、何となく人情っぽく落としてお帰りいただくとか、とりあえずあばずれの人は泣いとくとか、実にありがちな、うんざりするくらい奴らの常套手段だよなあと…。工業地帯に隣接した商店街に生まれて、ヤクザとの賭け麻雀にハマって財産全部なくして幼い子供三人と妻を置いて失踪して最終的には川崎の駅前でホームレスになってるのを目撃された魚屋の二代目とか、泥酔して人んち(ウチだよ…)の洗濯機をブッ壊したり好き勝手に生きてたら息子が元カノを殺して自分も自殺しちゃって、その寸前まで一緒にいたってんで取調べ受けたりしてるうちに脳溢血か何かで倒れてそれからずっと植物状態だというズベ公あがりという噂のおばさんとか、近所にいたからよくわかる。あのヤクザだってあの場じゃあシンミリしてるけど、「やりすぎちまったな」と思ったかもしれないけど、根っから改心するくらいなら最初からやってないっていう。貴伊子のパートだって、根本的な解決からは程遠いのが実に苦い。あれは彼女(=諾子)なりの精一杯だけれども、千古の家は貧しいままだろうし…。あれらの出来事は結局、彼女らに「腹に据えかねる事態も、埋められない溝も、どうにかやりすごして、先に進むしかない」という冷徹な事実を告げていると思うけれども、でもだからといって何もしなくていいわけはないだろうと何かをなさんとする彼女らにものすごく共感してしまう。自滅でも、諦観でも現実逃避でもない道が、どこかにあるだろうと。
そんなこんなを思ってしまうからこそ、新子とタツヨシの別れ際のやりとりもえらくグッとくる。この先どうなるかわからないのは、それは見ている我々も同じことだ。二度と会えない友達だって、観客の皆にそれぞれいるだろう。世界がどうなってるのかだって、結局のところ、よくわからない。大人になってるはずなのに、まだわからない。
ああ、おそろしいことだ。ここまできても何かを言えた気が全然しない。ひづる先生のことも、何より爺さんのことも語れてない。緑の小次郎のことも、ウイスキーボンボンの包装に反射した光のことも!象でいうと目元のシワくらいしか語れていない!

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